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宇野功芳/アンサンブル・フィオレッティ:2人の伴奏の名手

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    JUGEMテーマ:合唱


     11月28日(土)、神戸で「ドンブラコ」を聴きました。CD、9月の富山の初演では佐藤和子さんが伴奏でしたが、神戸では以前からフィオレッティを伴奏してこられた宮下恵美さんが担当になりました。それを聴き比べて、2人の特徴がとてもよく表れたと思います。拙ブログの読者での方で、富山と神戸の両方を聴いた方はおられますでしょうか。

    コンサート情報 >> (富山神戸
     佐藤和子さんのピアニズムは繊細でありながらも、自己を主張することなく目立たずに歌の引き立て役に徹するところがあります。普通の歌曲を伴奏した際に、歌い手の魅力を引き出すことには長けているタイプです。宮下恵美さんは、感情をピアノの音色で上手く表現するのに長けていて、指揮者の気持ちに対して敏感に反応することができるのが特徴です。
     例えば宇野功芳氏が取り組んできた歌謡曲のコーラスなど、感情表現そのもので宮下さんが伴奏の場合、指揮者の宇野さんがこのような気持ちで振っている、というのを察してすぐに音にすることができます。お客の状態によって指揮者の思いも、リハーサルと違ってくることがありますが、そういうことに対しても雰囲気で感じ取って音にします。ところが佐藤さんの場合は、コーラスだけでなくピアノに対しても、かなり指揮者としてのエネルギーを注ぐ必要になってきます。宮下さんはFM大阪で、このあたりのことを語っておられますので、是非参考にして頂ければと思います。「おしゃべり音楽マガジン」の2008年2月をご覧ください。
     ところが「ドンブラコ」になると、不思議と佐藤和子さんのピアニズムが途端に活きてきます。佐藤さんのピアノは繊細で常に控えめな筈ですが、「ドンブラコ」となると楽譜がバロック音楽のように簡素で、メロディ・ラインよりはリズムが重要になってきます。この正確なテンポとリズムの切れにおいては、佐藤和子さんが得意にするところで、「ドンブラコ」の音楽全体の生命を司っているように、この作品に躍動感を与えています。
     ですから「ドンブラコ」全体の印象としては、佐藤さんの伴奏で聴くと、最初から最後まで一気に楽しめる、といった感じがします。リズムが活きているせいか、「ドンブラコ」に関しては宮下さんのピアノが全体的に単調に聴こえてしまうのが、実に不思議です。
     それでは、宮下さんのピアノが詰まらないのか、と言うと決してそうではありません。最初の第1場の2つの段は、リズムが重く冗長に感じる向きはありました。ところが第2場出征途上の段での、桃太郎と犬、猿、雉子と出会ってその後歌うところなど、かなり上手くそれぞれの役回りの感情が出ていたりして、この辺りから次第に楽しめるようになりました。ここに出てくる数え歌をピアノのソロで歌うあたり、宮下さんのひとつの聴きどころになります。宮下さんのピアノ伴奏が最も良かったのは、第3場の鬼ケ島討ち入りの段で、最初の「おくり」から始まって桃太郎一行が討ち入りに当たる心構えを形成していくところの表現など、その心情がかなり上手く表出できていたと思います。宮下さんの「ドンブラコ」ではこの第3場がひとつの聴きどころになるのではないでしょうか。
     神戸公演での前半の古関裕而の作品では、「長崎の鐘」のような曲になると、宮下さんは本当に泣かせてくれます。これは佐藤さんには出せないところです。
     宮下恵美さんは2000年からずっと、宇野功芳/アンサンブル・フィオレッティの伴奏を務めてこられました。そうしたもので培われた反応の良さは、何ものにも代えられない魅力になっています。一方の佐藤和子さんは、アンサンブル・フィオレッティとまだ実演では2度共演しただけですが、伴奏ピアニストとしての基本的な資質に優れていて、アンサンブルの底辺をしっかり支えて音楽そのものの造形を揺るぎないものにします。この2人の名手が今後どのような形で舞台に現れるかは分かりませんが、今後はそれぞれ違ったタイプの演奏を、聴いていくことができるでしょう。

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