2011年、ユッケを食べた5人が死亡、200人余りが症状を訴えた「焼肉酒家えびす」の集団食中毒事件で、最初の被害者が出てから27日で10年です。家族を亡くした遺族に話を聞きました。
小矢部市の久保秀智さん(58)。10年前、次男・大貴さんの誕生日を祝おうと家族4人で焼肉酒家えびす砺波店を訪れました。
ユッケなどを食べた家族の団らんは一転、次男の大貴さんは激しい腹痛と吐き気に見舞われ、半年間の闘病の末、息を引き取りました。14歳でした。
久保秀智さん「結局無念を晴らす方法しかない。子ども達は、これから人生を作り上げていくという夢をもって動きますが、親としては亡くした息子の姿を追っかける。でも、おかげさまで14歳で止まっている。14歳の姿が24歳、どうだったかって言われても、想像がつかないんですよ。中学校2年生のメダルを掛けとる姿で終わっとる」
富山、石川、福井、神奈川の焼肉酒家えびすでユッケを食べた客のうち、200人余りが症状を訴え、5人が死亡した集団食中毒事件。
激安路線で事業が急成長したその裏で、店側の生肉に対するずさんな衛生管理体制が明らかとなりました。
発生から5年の時効が目前に迫っていた2016年2月。県警などの合同捜査本部は、衛生管理の不徹底が食中毒を引き起こしたとして、運営会社の元社長と食品加工販売会社の元役員を、業務上過失致死傷の疑いで書類送検しました。
その3カ月後、検察の判断は「不起訴」。裁判で、刑事責任を問えないと判断された理由は2つありました。
・原因菌は食肉業界でも知られていない特殊なもので、食中毒の発生を予見できなかった。
・当時の国の衛生基準を守っていても、食中毒の被害を防げなかった可能性がある。
刑事責任を求める久保さんたち遺族の願いは届きませんでした。
久保秀智さん「この気持ちのやりようをどこに出すのかやり場がない状態です」
それでも、久保さんたち遺族は、刑事責任追及の最後の手段として、およそ2万5000人分の署名と共に検察審査会に申し立てました。
これを受け、審査会はより詳しい捜査を求める「不起訴不当」を議決。
しかし、再捜査を行った富山地検は「当時広く知られていない知見を、一般の業者に求めるのは難しい」と判断。
再び「不起訴」とし、捜査は終結しました。
久保秀智氏「結局、被害者が刑事裁判というその立場に上げて貰えるだろうと、いろんなことをして、そしてしたくもない民事訴訟を起こして、そしてお金をかけて浪費をかけて10年間戦ってきたですが、結局何の結果もなかった。というのがこの事件です」
久保さんたち遺族が「えびすの運営会社」と、元社長や元店長を相手取った民事裁判では、運営会社に1億6,900万円の支払いを命じる判決が出たものの、特別清算中の運営会社からは、今も賠償金の支払いはありません。
小西正弘氏「刑事も民事も一緒、10年間ではないけど長い間ずっと頑張ってきました。私なりに何もできないですけど、ここに居るしかないので。でも頑張ってきました。でも結果はこれです。あぁほんと、私らの気持ちって本当に全然関係ないんだなという感じ」
砺波市の小西正弘さんも、10年前、焼肉酒屋えびす砺波店で一緒に食事をした妻と義理の母を食中毒で亡くしました。
小西氏「抱きしめたいなとか、手を触りたいなとか、ぬくもりを感じたいなとかあるがです。でも実際は、そんなことはありえない。ありえないんですよ」
遺族の思いが報われなかったこの10年。一方で、この事件をきっかけに生肉の規制強化が進められました。しかし、食中毒を引き起こした腸管出血性大腸菌の届け出数は、10年前から減っていない現状にあります。
当時、県内患者の治療にあたった種市尋宙医師は、事件の風化を懸念します。
種市尋宙医師「肉の生だと、牛だろうが豚だろうが鳥だろうが全て危険だということを、それをまざまざと認識させる事例が、この富山の地で起こった。一番大事なのはそれを忘れない事。予防に勝ることはないので、とにかくリスクを理解して間違った認識もとに食生活を変えないでほしいと思う」
そして、遺族も悲劇を繰り返さないことを望んでいます。
久保氏「しっかりとしたマニュアルがあって、しっかりとした管理がされていれば、10年前のあんなことは起きなかっただろうと。食の安全基準を作ったのが、この事件だと思います」
小西氏「やっぱりこんなことがあったと、色んな人が知るべきかなと思います。いろんな人が知らないと変わりようがない。でも知らないと(被害者の)気持ちにもならないじゃないですか。こういう現実を知る事が、すごく大事だと思います」
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